大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和60年(ヨ)2221号 決定 1985年7月23日

申請人(選定当事者) 金野道久 外一名

被申請人 東都自動車株式会社

主文

被申請人は、被申請人と申請外全国自動車交通労働組合総連合会東都自動車労働組合との間の昭和五一年六月二二日付労働協約に基づく組合費チエツクオフ協定を理由として、申請人らの昭和六〇年七月分以降の各賃金から毎月金二〇〇〇円の賃金控除をおこなつてはならない。

申請費用は被申請人の負担とする。

理由

一  申立

1  申請人

主文第一項と同旨。

2  被申請人

(一)  本件申請を却下する。

(二)  申請費用は申請人の負担とする。

二  当裁判所の判断

1  被保全権利について

(一)  当事者等

疎明資料によれば、被申請人はタクシー営業などを業とする会社であり、申請人らはいずれもタクシー運転手として被申請人に雇用され、大泉営業所に勤務していること、被申請人には全国自動車交通労働組合総連合会東都自動車労働組合(以下「東都労組」という。)があり、そのほか申請人らの所属する新東都自動車労働組合(執行委員長矢作孝一、以下「新東都労組」という。)が組織されていることが一応認められる。

(二)  被申請人と東都労組との間のチエツクオフ協定

疎明資料によれば、被申請人と東都労組との間には昭和五一年六月二二日付労働協約があり、同労組組合員の組合費等につき、賃金から差引してこれを同労組に手交する旨のチエツクオフ協定があること、被申請人は右協約に基づき毎月二五日の賃金支給日に同労組組合員の賃金から組合費二〇〇〇円を控除し、同労組に手交していたことが一応認められる。

(三)  申請人らの東都労組からの脱退

ところで申請人らは以前東都労組に加入していたが、既に同労組を脱退しているので右チエツクオフ協定の適用を受けない旨主張し、被申請人はこれを争うので判断するに、疎明資料によれば、申請人らはいずれも東都労組の組合員であつたが、昭和五九年八月七日付組合脱退通告書で矢作孝一名義で申請人らのうち申請人恒木嘉彦、同井原勤、同加藤健次、同吉田義治、同中島隆雄、同鈴木博、同渋谷淳、同高橋英世を除くその余の申請人について、そして同年一〇月一七日付組合脱退通告書で申請人恒木嘉彦が、同月一八日付通告書で新東都労組が申請人らについての脱退の意思をそのころ東都労組にいずれも内容証明郵便にて通知し、更に昭和六〇年五月一六日到達の組合脱退確認通知書で申請人らの代理人弁護士内藤隆及び同山崎恵により、各申請人ら(但し申請人青柳清、同菊池隆夫、同小林常良、古沢晃を除く。)の個別的委任に基づいて東都労組に組合脱退の意思を通知したこと、この間昭和五九年九月二二日申請人らを中心に新東都労組が結成され申請人らは同労組に加入したこと、他方被申請人は東都労組に右通知がなされたころ申請人らが東都労組を脱退したこと、及び申請人らについて東都労組のため賃金控除を行わないよう要求する旨の通知をうけたが、その後も申請人らの賃金から東都労組の組合費分を控除し、これを昭和五九年三月一九日民法四九四条を理由に供託したことが一応認められ、これらの事実によれば申請人らは右各通知により遅くとも昭和六〇年五月一六日までに東都労組に対し脱退する旨の意思表示をして同労組を脱退したものと認められる。なお疎明資料によれば、東都労組の組合規約には脱退の手続につき、その理由を付し、支部を経由して執行委員長に届出ることとし、その承認があつてはじめて組合員資格を喪失する旨定められていることが一応認められるが、組合員がその所属の労働組合から自由意思により脱退することは自由であり、いわれなく組合脱退の自由を制約することは許されないところ、右組合規約の要求する脱退を組合の承認に係らせる点は組合員の脱退の自由を制約するものとして無効であり、また理由を付することを要求する点についてはこれを欠くことによつて脱退の効力に影響を及ぼすものとは認められない上、その余の手続も脱退の意思表示に明確性を要求する限度でのみ有効というべきであり、本件においては申請人らは代理人等を通じて脱退の意思を表示しているが、通知者、代理人の身分、方式等により十分脱退の意思表示を確認しうるのであつてその明確性は明らかであり、脱退の手続に何ら瑕疵はない。

(四)  よつて申請人らは被申請人と東都労組との間のチエツクオフ協定の効力を受けないこと明らかであり、被申請人は各申請人の賃金から昭和五一年六月二二日付労働協約に基づいて東都労組のため組合費を控除することは許されない。

2  必要性について

次に必要性の点について検討するに、組合費として控除される金額は二〇〇〇円と各申請人にとつて多額ではなく、また前示のとおり被申請人は昭和六〇年三月一九日に各申請人らの脱退通知を受けた後の控除分について民法四九四条を理由として供託していることが認められ、今後も申請人らの控除分についても同様に供託するであろうことは十分推認されるところであるが、他方申請人らは供託される分とは別に更に新東都労組のために組合費二〇〇〇円(この額は疎明資料により認められる。)を納入しなければならず、各申請人の負担は増大し、しかも新東都労組が結成後間もない組合であることからすれば再び組合費として同額徴収することは必ずしも容易なことではなく、しかも労働組合の主な財源が組合費であることからすると、徴収が困難となれば新東都労組の存続ひいては各申請人らの労働基本権にも影響を及ぼしかねないのであるから、これら事情を考慮すると控除金額が多額でないことや被申請人が控除分を供託するとしてもなお保全の必要性が認められるものといわざるを得ない。

3  以上のとおりであるから本件申請はいずれも理由があるから、事案に照らし保証を立てさせないでこれを認容することとし、申請費用につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 遠山廣直)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例